制御構造
内部モデル原理
2自由度制御
内部モデル制御
外乱オブザーバ
モデル誤差抑制補償器(Model Error Compensator)
制御系設計を行う場合には,対象の数式モデルに基づいて制御器の設計を行うことが一般的である.このとき,数式モデルと制御対象の動特性との間にギャップがあれば,それに起因して所望の制御性能を得られない.動特性を数式モデルとして完全に表すことは難しく,対象パラメータの個体バラツキ,経年劣化など,対象の挙動を完全に把握しモデル化することは不可能に近い.また,例えばロボットが様々な重さの物体を運ぶような状況では,通常の制御手法では重さによらず同じ制御器で動作させることになるため,バラツキに強い制御系の構築が必要不可欠である.他方,一般的なロバスト制御手法では,このバラツキや外乱に特化して研究が展開されている分,ロバスト性の向上は期待できるもののロバスト指標以外の性能との両立は難しくなる.
これに対して,制御対象(もしくは既存の制御系)にマイナーフィードバックを施すことで,見かけ上の制御対象とあらかじめ設定された数式モデルとの入出力特性ができるだけ等しくなるように補償を行うことができれば,モデル誤差や外乱に起因する制御応答の劣化を抑制することが可能となり,既存の制御特性も保たれる.本稿では,そのようなモデル誤差の補償に特化した補償器であるモデル誤差抑制補償器(Model Error Compensator, MEC)について概要をまとめる.MECは,制御系のロバスト性向上のみに特化した補償器であり,制御対象の出力yとモデルの出力y_mの差をフィードバックすることで見かけ上の両者間のギャップを小さくする手法である.制御対象のモデルP_mを補償器の内部に含むことにより,信号差をフィードバックすることで誤差補償を行う構造となっている.この補償器は補償後のシステムP_cとP_mとのギャップを抑制する補償器であり,モデル誤差抑制補償器(MEC)と呼ぶ.MEC内では,誤差抑制およびノイズ,外乱抑制のための補償器Dを付加している.DおよびP_mの設計結果としてモデル誤差P_c-P_mやノイズw_u,w_yの影響を十分に小さくできれば,Pの代わりにP_cを用いて制御系を組むことでP_cへの入力uから出力yまでの特性がP_mに近いものとなり,制御応答として所望の出力に近い出力が見込まれる.基本的には,誤差補償器Dはハイゲインフィードバックとすることで出力に現れるモデル誤差の影響を劇的に減らすことが可能となる.ただし,観測ノイズの状況に応じて適切な設計が必要となりうる.MECは,シンプルな形で既存の様々な制御系設計法と併用することができるため,良好な制御性能とロバスト性能の両立を簡単な設計手順で実現できる.例えば,周波数整形型終端状態制御(FFSC)とMECとの併用によってSICEの3慣性ベンチマーク問題にアプローチし良好な性能を実現している.MECを含む制御系では既存の制御器との併用を前提としたことの結果として,制御性能とモデル化誤差の抑制とを分離して考えることができるため,両者を同時に考慮して設計しなければならない場合に比べて設計の見通しが格段に良くなる.
MECは,外乱オブザーバとはよく比較されるが,MECの外乱オブザーバに対するメリットは逆モデルが不要な点にあり,逆モデルが要らないことで非線形系や非最小位相系,多入出力系など,適用範囲がより広くなる.タイトルにMEC等が入った筆者らの他の研究グループによる研究も精力的に行われており,オンライン調整に関する研究や,モデル予測制御(MPC)との併用,トルク制御,データ駆動制御に関する研究など様々に展開されている.
モデル誤差抑制補償器の記事一覧
モデル誤差補償器
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